残業代請求に関してよくある質問と弁護士回答 ( FAQ )

Q 会社から、残業禁止しているから残業代は払わないと言われました。
A 簡単に認められない言い分であり、残業代請求の余地が十分にあります。確かに、明示の残業禁止に反して行われた時間外労働について残業代請求を認めなかった裁判例があります(東京高判平17.3.30 神代学園ミューズ音楽院事件)。しかし、これは、36協定が締結されるまで残業を禁止する旨の命令を使用者が繰り返し発し、残務がある場合には役職者に引き継ぐよう徹底していたという事実認定の下での判断であることに注意すべきで、形式的に残業禁止としながら従業員の時間外労働(残業)を黙認していたような場合には、やはり残業代請求が認められるべきこととなるでしょう。
Q 36協定って何ですか?
A 36協定とは、労働基準法36条に定められる書面による協定のことで、使用者と労働組合(または労働者代表者)の合意により、適法に1日8時間以上や週40時間以上あるいは休日に労働者に労働させることができることとするものです。時間外労働や休日労働は法律上は原則禁止であるため(労働基準法32条、35条)、36協定を結ばずに労働者に時間外労働(残業)や休日労働をさせることは違法となります。
Q 会社から、この手当が残業代だと言われています。
A 基本給と別に支払われている手当が残業代(固定残業代、みなし残業代)であるというためには、①時間外手当(またはその代替)であることが明確に示されていること、②当該手当が実質的にみて時間外労働の対価としての性質を有していることが必要です。会社の言い分が不適当であるケースも多いので、まずはお気軽にご相談ください。
Q 年俸制でも残業代が支払われると聞きましたが本当ですか?
A はい、年俸制であることだけで残業代の支払いが免除されることはありません。年俸制であっても、時間外労働に対する対価がいくらであるのか(何時間分の時間外労働にいくら支払われているのか)明示されていなければ、残業代請求をすることができます。なお、年俸制の社員には時間外手当を支給しないとする就業規則は労働基準法37条に反し無効です(大阪地判平14.10.25 システムワークス事件)。
Q 完全歩合給で働いている場合には残業代はもらえませんか?
A いいえ、歩合給で働いている場合でも1日8時間以上または週40時間以上の勤務があれば原則として残業代を請求できます。
完全歩合給の場合であっても、契約書や就業規則によって割増賃金としての支払い部分が明示されているか、時間外手当として支払われている額が算定可能でなければ残業代が支払われていないとして残業代請求をすることが可能です(最判平6.6.13 高知県観光事件、札幌地判平24.9.28 朝日交通事件)。
Q 管理職は残業代は払われませんよね?
A いいえ、いわゆる管理職であっても残業代が支払われる場合があります(むしろその方が多いとさえいえます。)。一般的にイメージされる管理職と、労働基準法が残業代を支払わなくて良い(適用除外)とする「管理監督者」の要件にズレがあるため誤解されやすいところですが、単に「部長」や「店長」という役職があるだけでは労働基準法上の管理監督者には当たらず、残業代を請求することができます。
労働基準法上の管理監督者であるといえるためには一般の方がイメージするより遥かに使用者側、経営者側に近い立ち位置と実質的な権限を持っていることが必要になるため(東京地判平20.1.28 日本マクドナルド事件)、多くのケースでは名ばかり管理職であるとして残業代請求が認められます。  なお、仮に労働基準法上の管理監督者であっても、深夜割増手当は請求できることは知っておいていただきたいところです(最判平21.12.18 ことぶき事件)。
Q 管理監督者以外で残業代を支払わなくて良い適用除外者にはどのようなものがありますか?
A 農業等従事者(労働基準法41条1号)、機密事務取扱者(同条2号後段)、監視又は断続的労働従事者(同条3号)などがあります。なお、断続的労働従事者というのは、簡単にいえば手待ち時間の方が多い労働者(小学校の用務員、隔日勤務のビル警備員、団地管理人等)のことを指しますが、宿直・日直勤務のある労働者が平常勤務のかたわらである時は宿直・日直を担当する場合には、原則として時間外労働として残業代が認められます(大阪高判平22.11.16 奈良県医師時間外手当事件)。
ただし、宿直・日直勤務で断続的な業務について、「ほとんど労働をする必要がない勤務」等として所属労基署長の許可を受けた場合には適用除外者として残業代の支払いをしないことができるようになります。
Q 変形時間労働制の場合は残業代はもらえませんか?
A いいえ、変形労働時間制を採用している場合でも残業代請求できるケースは多くあります。
そもそも変形労働事件制というのは、一定の期間(1ヶ月以内、1年以内等)につき、1週間あたりの平均所定労働時間が法定労働時間を超えない範囲内で1週40時間以上または1日8時間以上の労働を残業代を支払うことなく行わせることができるという制度です(労働基準法32条の2乃至5)。しかし、制度上定められた所定労働時間を超えている場合には当然残業代が発生しますから、残業代請求を行うことができます。
また、変形時間労働制の要件は多岐にわたるため、変形労働時間制を採用しているといっても実際には法定の要件を満たしておらず変形労働時間制自体が無効ということも多く見受けられるため、実際に残業代が請求できるかは具体的に弁護士に相談してみるべきです。
Q フレックスタイム制でも残業代請求できますか?
A まず一般的にいわれるフレックスタイム制と法律上のフレックスタイム制には大きな違いがあり、単に始業時刻と終業時刻を労働者が決定できる(ただしコアタイムや1日8時間の所定労働時間は一定)というものは法律上のフレックスタイム制に当たらず、1日8時間以上または週40時間以上の労働時間が発生すれば残業代を請求できるのは当然です。
他方で、法律上のフレックスタイム制とは、1ヶ月などの単位期間の中で総所定労働時間を定め、労働者がその範囲内で各日の始業時刻と終業時刻を決定して働く制度です(労働基準法32条の3)。一種の変形労働時間制ですが、通常の変形労働時間制と異なり、就業規則に定めるだけではダメで、労使協定まで必要になり、要件も多岐にわたるため実際には無効となるケースもあります。
仮に法律上のフレックスタイム制が有効であるとしても、総額所定労働時間を上回る労働時間があった場合には残業代を請求できます。
Q 営業の外回り社員でも残業代請求できますか?
A ほとんど事業所にいない営業社員について残業代が払われないというケースが散見されますが、多くの場合には残業代請求が認められます。
確かに、労働基準法には、事業場外みなし労働時間制を採用する場合には残業代を支払わなくて良いと規定があります(労働基準法38条の2)。ただし、深夜割増賃金や休日割増賃金の支払い義務は免除されない点は注意してください。
また、事業場外みなし労働時間制は労働時間規制の例外ですから、それが有効であるための要件は厳格ですし、要件を満たすかどうかは慎重に判断される必要があります(東京高判平23.9.14 阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)控訴審判決事件)。
そのため、会社側が単に外回り社員だからといっている場合はもちろん、制度として事業場外みなし労働時間制を採用しているという場合にも、具体的に弁護士に相談して残業代請求可能かを判断すべきです。
Q 裁量労働制だから残業代はないと言われていますが請求は難しいでしょうか。
A いいえ、そもそも裁量労働制の要件を満たしていない可能性もあり、その場合には残業代請求が認められます。
裁量労働みなし労働時間制には、①専門業務型(労働基準法38条の3)と②企画業務型(労働基準法38条の4)があります。いずれも、労使協定や労使委員会の設置等、厳格な要件が課されていることから、会社から裁量労働制だと主張された場合には、これらの要件が満たされているかしっかりと確認する必要があります。
Q 退職時に書かされてた書面に、清算条項が記載されていました。残業代は請求できないでしょうか?
A ケースバイケースです。清算条項は会社と労働者にそれぞれ債権債務がないことを確認する条項で、原則として未払い残業代も含めて清算された(労働者が残業代請求権を放棄した)と解釈されます。
ただし、賃金債権の放棄については、労働者の自由な意思によることが明確である必要があり、そうでない場合には賃金債権の放棄は無効となります(最判昭48.1.19 シンガー・ソーイング・メシーン事件)したがって、清算条項や放棄条項がある場合には、まずその条項が未払い残業代請求権の放棄の意思表示といえるかを検討し、いえる場合であってもそれが労働者の自由な意思によるといえるかを検討することになります。
Q 所定労働時間って何ですか?
A 仮眠時間も必要に応じて実作業に従事する必要があるのであれば、労働時間としてカウントされます(最判平14.2.28 大星ビル事件)。ただし、仮眠時間中に起こされることがないなど実作業への従事の必要が実質的に皆無であるような場合には、労働時間に含まれません(東京高判平17.7.20 ビル代行(宿直勤務)事件)。
Q 通勤時間は労働時間に含まれませんか?
A 含まれません。ただし、直行・直帰の場合に、通常の通勤距離を著しく超えるような移動がある場合には、通勤距離の移動時間を差し引いた時間が労働時間に含まれるとする余地はあるでしょう。
Q 付加金とは何ですか?
A 加金とは、使用者に未払い残業代等の支払義務がある場合に、裁判所が労働者の請求によりその未払い分に加えて支払いを命じることができるお金のことです(労働基準法114条)。
付加金の支払いを命じるかは裁判所の裁量であることと、その裁判が確定して初めて支払い義務が発生するものであることに注意が必要ですが、裁判になる場合には忘れずに請求したいところです。